1:2017/06/01(木) 20:53:49.94 ID:

プロデューサーに言われて交換日記をやることになった


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2:2017/06/01(木) 20:55:10.58 ID:
6月1日 七尾百合子


「……あ」


日付と名前を書いて本格的に書くモードに入りかけたところで、そういえばと気付く。

私がさきほど日付と名前を書いたページは、見返しの横。
つまり、最初のページだ。
交換日記……というか、そもそも文章を書き慣れていないメンバーもいるなか、一番槍の私がどんなものを書くかというのは重要な気がする。

一度パタンとノートを閉じて、じっくりと背表紙を眺めた。
選ばれし語り部によって紡がれていく、でもきっと中身はなんてことない文字でいっぱいになるであろう、まだ真っ白な一冊。
そっと、少しもへこんでいない角を親指でなぞってみる。
3:2017/06/01(木) 20:56:38.38 ID:
この、交換日記というシステムは好きだ。

手紙では複数人で見るのは難しいし、何より自分が書いた文章が手元に残らない。個人的には、ファンレターのお返事を書く時にちょっと困ったり。
けれど交換日記にすれば複数人で回すことが出来るし、未来から見返したときに私たちがどんな交流の跡を辿っていったのかがよく分かるはずだ。
その頃には最初の頃の文章はやや堅苦しく思えるのだろう。
だがそれも、私たちにとって懐かしく忘れがたい、かけがえのない思い出に……なれば、いいなぁ。

他の皆はどんな文章を書いてくれるだろう。
日常について表現したいと思うこと、表現の方法は一人一人違うから。
次に自分のもとに日記が回ってきたときの楽しみにしよう。

さあ、改めて、ペンを手に取ろう。
話したいことがあるのだ。
4:2017/06/01(木) 20:58:51.70 ID:
こんにちは、七尾百合子です。

昨日、事務所に来る途中にとってもキレイな紫陽花を見かけたんです!
プロデューサーさんにオススメされた本を読みながら歩いているときに、通りかかったお寺に咲いているのを見つけて。

あ、オススメされた本、読み終わったらいつでもお貸しするので、言ってくださいね!
まだ途中なんですけど、病気になった主人公の心の動きや、人間が誰しも潜在的に持っているであろう欲望、それから、人生を見つめたときの人間という存在のちっぽけなことや、そばに生きていてくれる動物の暖かさ……ひいては、この世界で生きることのがよく描かれていて、ちょっとだけ涙ぐんでしまいました。
ストーリーが一日毎に進むのでお借りしたその日に全部読み切らずに作中の時間経過に合わせて読んでいるのですが、三日目あたりから形容しがたい胸騒ぎがし始めて、いつも通り朝日が昇り、部屋に在るものすべてが何一つ変わらない姿で未だ在ることに毎朝安堵を覚えています。
クライマックスがどうなるのか、今から本当に楽しみ……!

私が一人で図書館に行っていたらおそらく借りていないであろう部類の本だったから、オススメしてもらってよかったなぁ……。
映画やマンガにもなっているそうなので、小説で読むよりも、という場合はそちらもいいと思います。
元々がLINEで連載されてた小説だからそんなに堅苦しくもないし、ぜひ小説でも読んで欲しいな。
5:2017/06/01(木) 21:01:14.16 ID:
すみません、うっかり話が脱線してしまいました。
事務所でのおしゃべりなら誰かいるんですけど……物理的に止めてくれる人がいないと、つい。

ええっと、紫陽花の話です。

普段使わない道を歩いていたら、不意に石の階段と、色鮮やかな生け垣が目に入ったんです。
見上げればなんと階段の上の方まで、目の覚めるような青い紫陽花がぎっしり。
それはもう、マヤ文明において祭事を司り蛇を祀るピラミッドの如く、天までそびえるような……はい、少しためらいました。
でも、私の中の風の戦士が見えない何かに手を引かれたような気がして、膝のことも考えずに階段を上れば、白や薄いピンクから、曖昧で雲のような印象を受ける紫、赤、水色、群青……色とりどりの紫陽花。
花の大きさはそんなに大きくないし、輪郭も淡いのになぜか存在感があって……疲れもあったんだけど、ぼうっと魅入っていたら、住職さんがいらっしゃってお話を聞かせてくださったんです。
要約して紹介しますね!

昔は梅雨の気温の変化が激しいときに、死者や病人が多く出たそうです。
その際、死者に手向ける花としてお寺に紫陽花を多く植えたのだとか。
もちろん、そういった理由で紫陽花を植えているわけではないお寺もありますけど、簡単に栽培出来ることや、書画としても美しいことなどからも植えられるようになったそうです。

私がお邪魔したお寺のように、たくさんの紫陽花を植えているお寺は『あじさい寺』と呼ぶそうで、見頃に合わせてお祭りをしたり、お点前を奉納するところもあるんですって。
かつて違う目的で植えられた紫陽花が今もなお人々の心を癒すために手入れされているって、ステキですね。
6:2017/06/01(木) 21:02:43.12 ID:
花言葉は、移り気。

移り気、という花言葉の由来は、……ええと、有名だし、知ってるかな。
土がアルカリ性か酸性かで、花の色が青や赤になるお花だから、です。
ちなみに、同じ株のものでも、根から吸収される量によって花の色が違ったりするんだって!

でも、移り気という花言葉ってアイドルとしては積極的に受け入れられるものではないというか、ファンの皆さんにはあまりそうであってほしくないもの……ですね。
いえ、それでもファンの皆さんの心を魅了し続けようと努力するのが、アイドル、ですよね!
たった一瞬のきらめきを、映像にもインタビューにも活字にも残らない肉眼に焼き付いた光景を、忘れようとしても忘れられないような、そんな!
7:2017/06/01(木) 21:06:19.42 ID:
ふっと息を吐いたあとにペンを置いて、生き生きとした緑のなかに点在する青を思い出す。


「……綺麗だったなぁ」


何十年も、もしかしたら百年以上前から人々に愛され慈しまれてきた梅雨の花。
時代の移り変わりで注がれる人々の感情が変わっても、ずっと美しく咲き続ける姿。
たかだか15年しか生きていない私の記憶に強く刻まれたのは、確かだ。


「うーん」


掌でペンを弄ぶ。
筆先が下がっては、透明な壁に弾かれたように上を向く。


「…………」

8:2017/06/01(木) 21:09:04.89 ID:
よかったら、来週辺りにでも見に行かない? 私達6人だけの秘密……にするにはもったいないし、どうせ誰かに知られるだろうから、事務所のみんなで! もちろん、小鳥さんも、社長も一緒に!

プロデューサーさん、皆のスケジュール調整、よろしくお願いしますね!

明日もまた、みんなにとって素晴らしい一頁になりますように……。